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はちみつで乳児ボツリヌス症は実は約30年ぶりという話

はちみつでボツリヌス症

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はちみつに含まれていたボツリヌス菌が原因で生後6か月の赤ちゃんが乳児ボツリヌス症を発症し死亡したというニュースが先日ありました。同じ、6か月の父親として非常に悲しいですし、先月から離乳食をうちも開始し、色々な食材を食べさせ始めたばかりなので他人事ではありません。赤ちゃんにはちみつは有名な話のようですが、恥ずかしながらそのことを僕は知りませんでした。そこで、このようなことが起きないように乳児ボツリヌス症について勉強したのでまとめておきます。

ボツリヌス菌とは?

 ボツリヌス菌は細菌の中でも偏性嫌気性clostridium属に分類されます。ボッリヌス症をひきおこす細菌をボツリヌス菌と呼びますが、いくつかの仲間と毒素が知られています。日本ではA型、B型毒素による乳児ボッリヌス症が多いです。

“偏性嫌気性”とは酸素が嫌いな細菌のことで、酸素があると増殖できません。ですから、ボツリヌス菌は普段は空気のふれることのない土の中に存在しています。
ボツリヌス菌の変わった性質として普段はがほう “芽胞”と呼ばれる休眠状態で過ご
しています。しかし、条件がそろうと“発芽”して栄養細胞となって増殖し,“ボツリヌス毒素”を産生するようになります。

加熱に強いボツリヌス菌

芽胞と呼ばれる状態にあるは鎧着て閉じこもっているような状態で,通常の煮沸加熱では殺菌されません。芽胞の殺菌には121℃で30分の加圧加熱が必要で,通常のご家庭での加熱調理程度では壊れないということになります。つまり、避けることが重要です。

ボツリヌス毒素は殺菌可能

ボツリヌス毒素は無毒部分と有毒部分が結合した形で細菌から放出されます。口から毒素が入った場合、胃酸や消化酵素によって分解されず、吸収されたあと血中で有毒部分だけになり、体内に広がります。毒素はタンパク質でできていて、100℃で10分間の加熱失活し毒性を失います。

ボツリヌス毒素の作用機序

ボツリヌス毒素は神経に作用し、神経同士の信号の連絡部分、“シナプス”での信号を伝達する物質の放出ができなくなるため神経の信号が伝わらなくなり、運動麻痺症状を起こします。

運動麻痺の症状は手足が動かないだけでなく、飲み込み機能“嚥下障害”や消化管の運
動麻痺による便秘等の症状を認めます。

当然呼吸筋にも作用して、一番の生命の危険となる息ができない“呼吸障害”を認めることとなります。

乳児ボツリヌス症の症状

1歳以下で発症する場合の症状は、

 

  • 便秘傾向が先行し元気がなくなる。
  • 体がぐにゃぐにゃになる。
  • 哺乳力が弱くなる。
  • 泣き方が弱い。
  • 顔面が無表情になる等

 

の症状を認めます。

成人の中毒症の場合初期に嘔吐、下痢等の症状を認めることがありますが、乳児ボツリヌス症では便秘は認めるものの、嘔吐、下痢などの消化器症状はみられません。

ボツリヌスの感染経路

ボツリヌス症の発症の経路には大きく分けて3つの経路があり,それぞれ特徴があります。

一つ目はボツリヌス中毒と呼ばれるものです。ボツリヌス菌は休止状態の芽胞から、ある条件下で栄養細胞となり増殖・毒素産生をします。ボツリヌス中毒は食べ物とともに増えた毒素を摂取することで発症します。いわゆる食中毒で、過去に日本での集団感染
もあります。報告されているものでは、外国産キャビア、カラシレンコン、外国産グリーンオリーブ等の報告がありました。

 次に創傷ボツリヌス症ですが,破傷風菌と同様に傷口から芽胞が進入し、局所で細菌が増えることで産生された毒素によって発症します。野外でけがをして感染し発症することがあるようです。

 最後に乳児ボツリヌス症ですが、乳児が何らかのきっかけで芽胞を摂取し、それが腸管内で発芽・増殖することで産生された毒素によって発症します。日本では汚染されたハチミツの摂取による発症報告が多いですが、近年原因が特定されないケースも増えています。2006年にはミルクを作るために使用した井戸水が原因だったとの報告もありました。

なぜ、乳児にボツリヌス症がおきやすいのか?

乳児ボツリヌス症は乳児が何らかのきっかけで(おそらく食べ物とともに)芽胞を摂取して,それが腸管内で増殖することにより発症します。ではなぜ?大人は芽胞を飲み込んでも発症しないのでしょうか?

私たちの腸管は無菌ではなく、乳酸菌をはじめとした多くの細菌が正常細菌叢として生息しています。正常の細菌叢の縄張りがあって、変わった細菌が来てもそれは増殖するのを防いでくれているです。しかし、乳児期はまだ腸管の細菌叢がしっかりしていないためにボツリヌス菌のような厄介者の増殖を許してしまうからだと考えられます。

そういう理由で、幼児以降の正常な腸管細菌叢があれば、芽胞を摂取しても正常細菌叢に守られて、毒性を発揮するような形での増殖は起こりにくいと考えられます。色々なところにはちみつは1歳以降に摂取をはじめましょうと書かれているのはこういう理由です。

気を付けなければいけないのは「はちみつ」だけではありません。

具体的にどのような食べ物に注意すればよいのでしょうか?日本での報告例について調べてみると初期のころにハチミツが原因の乳児ボツリヌス症の報告が続いたため,1987年に当時の厚生省は乳児にハチミツを与えないことを通知しています。現在、専門書だけでなく一般向け育児書にもさまざまな形でこのことが記載され広く知れわたり、ハチミツが原因の乳児ボツリヌス症は1989年以来報告がなく、今回の報告は約30年ぶりです。

すべてのはちみつにボツリヌス菌が入っているの?

海外の文献によれば、ハチミツサンプルの6~10%で芽胞が検出されるとの記載もあり、この(乳児の口に入る可能性のある)食材が乳児ボツリヌス症の一番の原因と考えてよさそうです。これまでにハチミツ以外ではミルクを作るために用いた井戸水から菌が検出された等の報告や野菜スープや野菜ジュース、コーンシロップ等が疑われた例
がありますが、感染経路は不明なことが多いです。

原因不明なものが最近は多いです。 

乳児ボツリヌス症の原因となっているA型、B型毒素産生菌は国内の土壌にはまれであるため、海外で汚染された輸入食品が原因となった可能性が考察されている報告もあります。しかし、国内の保存食品と輸入品でも同様に通常の細菌の汚染に対して十分加熱され密閉され空気が触れないようにしてある食品がほとんどといってよいですし、実際に大人が食べてもまったく問題がないものばかりです。

個々の報告例で汚染食品が特定できているものもあるようですが、それだけ気をつければよいわけではありません。どの食品でも汚染されていれば感染・発症する可能性は残ります、つまり与えてはいけないものを限定することは非常にむずかしいと思います。しかし、言い方を変えれば、特に危ないとはいえるものは現在のところハチミツ以外にはないとも言えます。

乳児ボツリヌス症かも?と思ったら

 乳児ボツリヌス症は呼吸麻痺や乳幼児突然死症候群(SIDS)の原因となるなど恐ろしい病気には違いありませんが,成人の中毒症と違い症状の進行は日単位での進行のことが多く,症状に気がつき早期に受診して適切な診断治療がなされれば後遺症もなく治癒回復するといわれています。

似たような症状の鑑別にあがる疾患には,ギラン・バレー症候群(神経の炎症でやはり四肢の力や呼吸が弱くなる),脳炎・脳症(意識障害や全身状態不良),重症筋無力症(眼瞼の下垂や筋力低下)等の重大な病気があるので早期に診察を受ける必要があります。

まとめ

乳児ボツリヌス症は、約20年で21件と年間一人のペースで発生している程度の非常にまれな病気です。年間100万人赤ちゃんが産まれることを考えると今まで通りの離乳食の進め方で問題ないと考えていいと思います。

追記 はちみつは母乳に影響する?

Twitterのタイムラインでそのような声があったので調べてみました。井戸水を使用して感染した乳児ボツリヌス症の報告では、井戸水と粉ミルクからボツリヌス毒素が検出されたと書かれていますが、母乳からの記載はありません。薬剤は成分の一部が母乳に移行します。しかし、母乳に移行してから赤ちゃんに影響が出る薬剤は実は少ないです。そこから考えると、ママさんはそこまではちみつでボツリヌスが起きることを心配して摂取を控える必要はないと思います。

194874.hateblo.jp